2008年5月26日月曜日

りんちゃん5

りんちゃんは、生まれてから一度も親に手をあげられたこともなければ、叱られたこともないそうです。
愛情がないのか、白浜のたんたんとした気風か・・今になってはよくわからない。
確かに覇気の無い家だったな。
でも、留は確実にその気風を受け継いでいるような気がする。
あんまり、人に腹がたたないんだよね。ちょっとムカッとすることはあっても、すぐ忘れてしまうし、小さいころからなおちゃんに変わっているといわれ続けたものね。
なおちゃんは、りんちゃんのそういう気質が歯がゆいらしく、
「子供の怒りかたもしらん、ほんまに」
「だから仕事したお金もようもらわん。みな私がいかにゃあいけん。」
「こういうときは、男がしゃんとせんといけんのに」
とか、事ある毎に嘆いていた。
まあ、りんちゃんに借金の回収はでけんよね。
ある日、仕事をしたのに、踏み倒されたひとが訪ねてきた。タガヤさんの弟さんか甥ごさんらしいが、大工をやっていて、りんちゃんに畳をお願いしていたのだが、畳を納品したかという間もなく、姿を消して結局もらえなかった人なんだよね。
それで、そのころどうにか食えるようになっていたりんちゃんに、お金の無心を市に来たんだよね。
りんちゃんは、前のこともあるし、なおちゃんにきつく言われていたので、金は無いとことわったんだよね。
そしたら、その人がなんと言ったと思う?
「りんちゃん、金は貸してくれんでもええけえ、お金借りるのに一緒に行ってくれんか?」
「どけえ、行くんじゃ?」
「りんちゃんの家の権利書があろう、あれを担保にわしが金をかりるけえ、ちょっと一緒に行ってくれえ。」
ととんでもないことを言い出した。
りんちゃんは、ちょっと考えていました。 すると、重ねて
「なあ、りんちゃんこれで金を借りられたら、前のお金をそれで払うけえ。」
りんちゃんは、これでなおちゃんにお金と取れたと言えるとちょっとよろこんで、
「おう、へえじゃあ行こうか」
と二つ返事で、権利書を持ち出し、彼の後をついていきました。

ちょっとちょっと、畳の代金を大工さんが畳屋さんの家の権利書を担保にお金を借りて払うって・・・なんかおかしい・・・りんちゃん、しっかりしてよ。
ヾ(・・;)ォィォィ

行ったところは高利貸しも兼業している質屋さん。
でも、なおちゃんが懇意にしている質屋さんです。
そのころは、質屋と懇意にするぐらいりんちゃんとなおちゃんはお金に困っていたのでした。
なおちゃんは、とくのさんが身を粉にして働いて作ってくれた、血の結晶のような嫁入り衣装を質屋さんによく持っていっては、お米にかえてはその日その日をしのいでいたので、質屋さんはりんちゃんのこともよく知っていました。
もちろん、りんちゃんはお金を工面するという事はよく解らないので、質屋へは行ったことはありませんでした。
質屋さんは、権利書を見てびっくりしました。
それで、権利書を取り上げると、
「おまえら、なんちゅうことをしようんじゃ」と思いっきり怒って、おじちゃんとりんちゃんをたたき出してお金を貸しませんでした。
大工さんは怒ってどこかへ行ってしまいました。
でも、何年か後にまたりんちゃんはその大工さんに畳の代金を踏み倒されるのです。 (懲りないやつじゃ・・・というか、断れんのかい!
(-_-メ;)テメ・・・
なおちゃんは、本当に苦労が絶えません。
なおちゃんが帳面をするようになってから、やっと踏み倒されている実態が把握できたのはそれから何年も後ですから、やりくりは大変だったことと思います。
質屋さんは、あとでなおちゃんに権利書を持ってきて、こういう物は大事にしまっとかんといかんとなおちゃんにも説教をしました。
そのおかげで、今の家が残ったんだとなおちゃんから何度も聞いたものです。

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